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旅のノート・むかつく話

旅のノート・むかつく話

タワー・ブリッジ
その1・隣のおっさん
ロンドンへ向かうキャセイ・パシフィック航空機の機内。初めて飛行機に乗った私は、ガチガチに緊張していた。
 隣に座ったのは、白人のでっぷり太ったおっさん。初めは機嫌良く話しかけてきたのだが、こちらは外国人と話すのは初めて。英語がおぼつかないうえに、緊張しているものだから、ろくな受け答えができない。それが気に入らなかったのか、途中から急に不機嫌になってしまった。
 私のシートベルトがほんのちょっと自分の側にはみ出していただけで、
「これはおたくのだろう。きちんとそっちへやってくれ」
とにらみつける。
ひぇー。
こっちは、初めての海外旅行でただでさえ神経をすり減らしているというのに、隣でピリピリされたんじゃ、たまったものではない。
 このままこの親父の隣で、ロンドンまで24時間ずーっと一緒かよと思うと陰鬱な気分になったが、幸い、香港での乗り換えの際に、サヨナラできたので心底ほっとした。
その2・駅の窓口

 ロンドン発のユーロスターから降り立った、ベルギー、ブリュッセル駅。ユーレイルパスをvalidate、すなわち使用開始日を記入してもらうために立ち寄った駅窓口での出来事。

 ガラスで仕切られた広い切符売り場には、横にずらりと窓口が並んでいて、どれがなんの窓口なのか、さっぱりわからない。
 とりあえず、空いている窓口に行って、尋ねてみることにした。
 「今日からユーレイルパスを使いたいのですが」
とフランス語で言うと、その窓口のおっさん、おもしろそうにニヤニヤしながら黙って聞いていたが、「ほー、そーかい。それで?」というような態度で、私の次の言葉を待っている。そこで、
「パスをvalidateしてもらいたい」
と言うと、相変わらずニヤニヤしたまま聞いていたが、隣の同僚と顔を見合わせて笑った。
 なんなのよー。私、なんか、おかしなことでも言った?
 困惑していると、ようやく、「それは、あっちの12番窓口だ」と一言。
 まったく、人をばかにして。感じが悪いったらありゃしない。
 そりゃあ、見当違いの窓口だったかもしれないけど、旅行者にとっては初めての駅。こんなにいっぱいの窓口があって、表示も不十分なら、わからなくても当然じゃないの。見知らぬ場所で、不慣れな言葉で人にものを尋ねるのって、けっこうエネルギー、いるんだぞ。

 むかつきながら12番窓口へ。そこは、他の窓口に比べて長蛇の列。並んで長く待たされたあげく、ユーレイルパスを出すと、「それは、向こうの窓口で」と、別の窓口を指さすではないか!
 腹が立つというより、情けなくなってきた。
 こういう時、一人旅だと精神的にどっと落ち込むのよね。
 再度列に並んで順番を待ち、もう一度同じことを言って、ようやくvalidateすることができた。気力を振り絞って、ブルージュ行きの列車の時刻とホームを尋ねる。何かの紙の切れ端に書き付けられた、ひどいくせ字でほとんど読めないメモを片手に、ようやく切符売り場の外に出られたのだった。

 両替所を探すのに手間取ったこともあって、結局この駅で1時間のロス。
 駅構内は薄暗く、表示もわかりにくく、旅行者にとっては不親切極まりない駅だ。これで、国際駅?ベルギーに対する印象が、いっぺんで悪くなってしまった。

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